遠山叶の話file1
健流くんは未成年だったし、起訴か不起訴か調査は慎重に進んだ。
健流くんの身体の状態から大体の想像はついたし、嘘はついてないとは思っていたが、いかんせん死人に口なしだ。
事実であれば不起訴が妥当な所だが、もうひとつ証拠が欲しいところだった。
そんな時に父親である後藤和の部屋からビデオがみつかった。
おそらく健流くんなのだが、だいぶ幼い。
むごいビデオだったが健流くんに本人か確認する必要があった。
発作が起きたりしたら対応できるように、何人かの立ち合いのもとでビデオみて確認してもらうことにした。
最初の数分だけでいいから自分かどうか教えてくれと言い、ビデオを見せた。
健流くんは信じられないほど、目を丸くして、画面を凝視した。
異常だ、と感じすぐにビデオを止めた。
少しすると健流くんは
「あまり、記憶はないですけど、確かに僕です」と答えた。
心が苦しくなった。
「嫌なものをみせてしまってごめんね」と謝った。
健流くんは「トイレにいきたい」と言ったので、護衛をつけさてトイレに行かせた。
しばらくして、護衛の人から「トイレで吐いている、体調がおかしい」と連絡が入った。
すぐさまかけつけると健流くんは洗面台の前でほとんど立てない状態で震えながら気持ちわるそうにしていた。
フラッシュバックかもしれない、と思った。
「嫌な過去だったよね、ほんとにすまない」背中をさすりそう言うと、健流くんは僕の手をはらいのけてこう言った。
「勘違いすんじゃねぇよ。あんな過去どうだっていいんだよ。
俺はお前らのその同情の目が気持ちわりーんだよ」